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2018-04-09 | 被災地のいま51 |
2018-03-05 | 被災地のいま50 |
2018-02-16 | 被災地はいま49 |
2018-01-08 | 被災地のいま48 |
2017-12-29 | 被災地のいま47 |
被災地のいま512018-04-09
阪神・淡路大震災では、仮設住宅や復興公営住宅で誰にも看取られず亡くなり、しばらく経った後に発見される「孤立死」(※1)が社会問題になりました。2010年版高齢社会白書には孤立死は「生存中の孤立状態が死によって表面化したもの」との記述があります(※2)。家族や友人・隣人との接触がない、行政サービスともつながっていないなど、社会的に孤立している高齢者は少なくありません。
東日本大震災発生からもうじき7年、復興公営住宅では、高齢の単身世帯などが地域社会から孤立してしまうことがないよう、様々な取り組みがなされています。
仙台市は「復興公営住宅ワーキング」において、市・区役所関係課や社会福祉協議会などと個々の世帯の戸別訪問、保健福祉サービスの提供などについて支援方針を調整するとともに、コミュニティづくりについても連携して取り組んでいます。
コミュニティソーシャルワーカーの大久保環さん(仙台市社会福祉協議会太白区事務所)は、住民主体の見守り活動や交流活動の支援にあたってきました。「復興公営住宅の入居者が、そこの地域の住民となってコミュニティを形成し、見守りも交流もある程度住民の手でできるようになるまで支援することが、私たちの役目」と話します。
地域で見守り活動を担う福祉委員(ボランティア)は、その一例です。鹿野復興公営住宅では現在3人の福祉委員が月1回、高齢の一人暮らしの入居者を訪問しています。
「玄関先で“変わりありませんか”と声をかけたり、お喋りしたり、いろいろですが、何か変わった事があれば地域包括センターや民生委員さんにつなぎます」と小野寺桂子さん。「訪問が無くても大丈夫」と言われた場合は、散歩や買い物で会った時に様子を伺うなど、入居者の気持ちに添った緩やかな見守りを続けています。「最近は、住民の皆さんも高齢の一人暮らしの方のことを気に掛け、“姿が見えないので心配”“先日会ったので大丈夫”などと、さり気なく見守りをしてくれるようになりました」と話します。
困ったことが起きた時すぐ相談できる相手がいるコミュニティは、孤立リスクの高い高齢単身世帯に限らず、どの住民にとっても安心の材料です。見守り活動は人とコミュニティ、人と行政サービスをつなぐ役目を果たすと同時に、地域の安心もつくっているのです。
※1現在、孤立死(孤独死)に明確な定義はありませんが、ここでは一般的な見方に従いました。
※2「第1章/第3節高齢者の社会的孤立と地域社会」(2010年版高齢社会白書:内閣府)
被災地のいま502018-03-05
宮城県では、震災で両親を失った子ども139人(※1)のうち約6割が里親制度のもとで養育されることになりました。里親となったのは、ほとんどが祖父母やおじ・おばなどの親族です。
「震災で里親になるというのは極めて特殊な体験です。誰とでも話せることじゃなく、理解し合える相手もいない。里親同士、気持ちを共有し合える場が必要でした」。
里親会である宮城県なごみの会の卜蔵(ぼくら)康行さんは、そのように当時をふり返ります。なごみの会は県の委託を受けて2012年3月に里親支援事業を開始。東北大学震災子ども支援室の協力を得ながら石巻・東松島・気仙沼の3カ所で「親族里親サロン」を開催してきました。
里親は、自身の喪失感と震災体験の痛みに向き合いながら、孤児となった子と一緒に暮らす道を選びました。子ども(孫)とは元々三世代同居だったので違和感がないという人、親族で話し合って引き取ることになった人など、その“親子”関係は様々です。
サロンに参加した里親たちは、里親になって生じた生活の変化への戸惑いや高齢で再び子育てを始める不安、母親の死亡を孫に伝えられずにいることなど、それぞれの気持ちを語り合いました。
最初は子育ての悩みを共有する場だったサロンですが、卜蔵さんは「サロンに参加しているご家庭を見ていると、6年経って大分子どもとの関係が安定してきているのが分かります」と話します。
それでも高齢の里親のなかには、病気など健康上の問題や経済的な不安を抱えながら子どもを養育している人もいます。また、思春期を迎えた子をうまく育てられるか、子どもが社会に出ていくまで自分たちが元気でいられるだろうかと心配する人も多くいます。
里親を支援する活動は、2017年、みやぎ里親支援センターけやき(※2)に移行しました。センター長でもある卜蔵さんは忘れないことが課題と言います。「里親さんたちに“皆さんのことをいつも忘れずにいる者がいる”ことを知っておいてほしいので、参加者がゼロになるまでサロンは続けます」。
震災で里親になった家庭と気持ちを通わせながら、卜蔵さんたちの活動は今後も続きます。
※1 宮城県によるデータ
※2 みやぎ里親支援センターけやきは2017年1月発足。県の委託を受け、宮城県なごみの会と社会福祉法人キリスト教育児院が共同で里親を支援しています。
被災地はいま492018-02-16
障がい者の就労を支援する場を再建するために
震災は、障がい者が通う事業所にも大きな傷跡を残しました。
みやぎセルプ協働受注センターは、就労支援事業所で働く障がい者の工賃向上を目的に様々な支援活動を行なう団体です。同センターの武井博道さんは「沿岸部にある障がい者就労支援事業所は、働いていた施設が津波で流されたり、建物は無事でも取引先が被災したために受託していた作業を失うなど、それぞれに厳しい現実に直面した」と当時をふり返ります。
事業を継続できなければ、月平均約1万9千円の1人当たり工賃(※1)さえ確保が難しいだけでなく、利用者が励みとしている社会参加の機会も奪ってしまいます。同センターは、被災事業所と被災地を支援したい企業をつないで新しい販路づくりを支援するとともに、販売イベントなどを通して各事業所の再建に奔走しました。
NPO法人みどり会みどり工房若林は、仙台市の荒浜にあった施設と農地を津波で流失しました。3カ月後、街なかのビルに移転しましたが、荒浜にいた頃のような農作業はできなくなりました。
「利用者さんは、商品の製作を通して自分も社会に貢献できているという思いが強いので、作業が無いのは本人も辛い。すぐに作業をつくらなければと思い、以前からやっていた手芸を始めました」と工房管理者の今野真理子さん。それぞれの障がい特性や心身のコンディションに合わせた作業プログラムを組み立てて、ピアノモチーフの雑貨シリーズ「ショパンチ」に特化した商品づくりを進めました。
ことし4月には、より利用者のためになるようにと就労継続支援B型事業所(※2)に移行。「今、困っているのは作業スペースが狭いこと。心が落ち着く場所の確保などは利用者さんの病状と直結する課題であり、次の展開を模索しているのですが、現状はうまくいきません」と話します。
他にも資金難などで施設を再建できず、今も仮の建物を拠点にしている事業所が数カ所あり、復興とはほど遠い実態が垣間見えます。利用者が働きやすく、より高い工賃を得られる環境をつくるために、関係者の努力はこれからも続きます。
※1 宮城県内の就労継続支援B型事業所で働く障がい者の平均工賃(2015年度)。
※2 雇用契約を結ばずに就労の機会を提供し、一般就労に向けて知識と能力の向上に必要な訓練などを行なう事業所。
被災地のいま482018-01-08
高齢や障がい、病気などで歩行が難しく、“自力では行きたいところに行けない”人たちを移動困難者と言います。
障がい認定を受けている場合など行政からタクシー券の支給はありますが利用額は決して十分とは言えません。
被災地のいま472017-12-29
女川駅から車で約15分、海を望む高白浜の集落に、一般社団法人「コミュニティスペースうみねこ」が運営するカフェと農園があります。震災で人口は減少しましたが、イチジク栽培など地元には無かった事業に挑む「うみねこ」に魅力を見出した人たちが、町内外から働きに来ています。
始まりは、高白浜に住む八木純子さん(うみねこ代表)が、被災した高齢者の心を癒すため集落の女性たちと一緒に布草履を作ったことでした。さらに漁業を辞めた男性たちが農業で生きがいを取り戻せるようにと果樹栽培を始め、ボランティアや住民が集う「果樹園Cafeゆめハウス」で地場の食材を使ったランチを提供するようになりました。活動を続けるうち、うみねこの夢に共感して働きに来る若い世代が増え、イチジクを使ったお茶やスイーツ、唐辛子粉の製造販売など事業の幅も広がりました。
「女性の働く場所や若い人たちがやりたいと思う事業をつくり出していくことが大事だと思っている」と八木さん。そのため「今はスタッフの夢を叶えることに全力投球している」と言います。
常に活動のずっと先を見ている八木さんですが、心無い言葉を耳にした時など、何かの拍子に一瞬で6年前の3月11日に引き戻されることがあります。「あの時の様子がパッと甦り、やはりトラウマになって抜け出せないんだと再認識させられる。みんなの笑顔を見たくて続けている活動だけど、毎日葛藤のなかを生きている」と胸の底にある思いを口にします。
「被災者はあの時の光景を見ている。ようやく生きて海から上がってきた人も、そこで息絶えてしまった人も見ている。だからこそ“復興”以上の楽しさを提供していきたいと思っているんです」。事業はそのための手段と八木さんは言います。「ワクワクしたり、やって良かったと喜び合ったり、自分たちだからここまで頑張れるとか、一生懸命作るから喜んでもらえるとか、そういうやりがいを大事にしたい」。
辛いこと以上に楽しいことが多かったと言える日を、自分たちでつくり出していこう。うみねこの活動にはそんな気概があふれています。
◎一般社団法人「コミュニティスペースうみねこ」 https://www.onagawa-umineko.com/